ボランティアの体験談①
ほっとくらぶの伊豆・湘南家族レスパイトに参加して
ある家族からの感想
今回、「ほっとくらぶ」の旅行に参加した健常児は3人いました。我が子2人(5年生の兄と3年生の妹)ともう1人は4年生のA君です。彼は超重症心身障がい児である2年生の妹を持つ兄です。今回の旅行には、次回は参加させたいからと妹をレスパイト入院させて、ご両親とともに下見として旅行に参加されました。
A君のお宅と我が家は、兄妹が2歳違いで4人家族という点で境遇が似ていました。以前ほっとくらぶの旅行でA君家族全員が参加された時に知り合い、そこで子ども同士が意気投合して今回の旅行で出会えることを楽しみにしていました。
我が家の兄のことを紹介させていただければ、スペクトラム症のボーダーラインです。ピンポイントの症状であるため、解ってもらえずに親子でとても苦労してきました。衝撃性があり、友達から暴力を振るわれることや、複数の子から悪口を言われることで切れてしまうことがあり、切れて暴れて周囲の友達に大怪我を負わせてしまいます。けれど、切れてしまい気づいたら友達に怪我をさせている自分が怖くなり、クラスに溶け込めず、不登校になったりしていました。そこでいろいろ支援しながら、今回の旅行の一ヶ月前には、登校できるようになり、こんなことを言ってはいけない、プレッシャーをかけてはいけないと頭ではわかっていながら兄に「頑張ってね。切れないでね。問題を起こしたら旅行には行かないよ!」と今回の旅行という人参を兄の前にぶら下げていました。
すると下校後、兄は「今日は平和だったよ。切れなかったよ。」「抱っこして。」と言うようになりました。そして旅行前日に、担任の先生がお便りをくださり『兄はとても頑張っています。切れなくなりました。ちょっかいを出されても、うまく気持ちをおさえています。涙をこぼしたりしながら我慢していることもあります。引き続きまわりの子どもたちの人間関係を整えていきたいと思います』といったことを書いてくださいました。
夜、兄に尋ねてみました。「どうして、そんなにほっとくらぶが好きなの?」と。
兄は「ほっとくらぶには差別がないからだよ。」と答えました。何かすべてを感じているのだなと思い、あえて言葉の意味を聞きませんでした。
おそらく、「ほっとくらぶ」では意味なく暴力をふるわれたり、悪口を言われることもなく、障がいのある子を中心に自分のできることで支援して、みんなで楽しい時間を過ごそうとしており、障がいのある子が心地よいところは健常児にも心地良いといいたかったのかな? と思います。
こうして、頑張った兄は旅行に参加できました。A君にも出会い行動を共にすることができました。
健常児3人は目的地に着くとすぐに走り出していきます。目的地で好奇心を満たすために早めに行動しようとしています。それは障がい児の移動には時間もかかり、自分達のことで迷惑にならないようにと集合時間前にバスに戻るためでした。
残念ながら、言葉で表現するのが苦手な彼らですが、なるべく団体行動を守ろうとしていました。
観光中、仲良く3人で行動する姿を見て、A君のママが「さっき兄と妹が手をつないで走ってましたよ。寄り添って観光できていいですね。理想的だなぁ。Aも動ける妹が欲しかったっていつも言うの。だからこうして動ける子と一緒に旅行できることがすごく嬉しいと思うの」と言われました。A君のママには健康なきょうだいが遊んでいるのを見せてしまい酷かな? なんて考えてしまいました。でも、A君のママは健康な妹がいるような感覚を感じたようで良かったと話されていました。何か大きな家族のような感覚になれたと。
その夜、障がい児のお部屋のお手伝いから部屋へ戻ってみると、我が家の部屋に2枚の布団を敷いてA君を真ん中に3人が手をつないで川の字になって眠っていました。
障がい児の兄弟がいること、いないこと、これは変えることができません。もちろん決してどちらが幸せとかでもありません。「ほっとくらぶ」で出会った子ども達はみんなで一緒に子育てしてあげればいいのかなと思いました。
旅行を終えたバスがこども病院に到着し、障がい児を移動させようとしていると健常児3人が「何か手伝うことはありますか? 何か運ぶ物はありますか?」と声をかけてくれました。自分達ができることをやりたいと考えて声かけをしてくれたのです。
子どもたちが、差別のない世の中は心地良いのだという事を感じながら、大人になってくれれば、障がい児にも健常児にもきっと良い世の中になるんじゃないかなと思います。私たちは「ほっとくらぶ」で、障がいに関係なく参加した子どもたちが大人になった時に優しい社会を創ってくれるための土壌づくりをしているのかもしれません。小さな土壌ですが、そこに子どもという種を植えて、いつか花を咲かせ、またその種が拡がっていけばいいなと思います。あるスタッフが子ども達にそっと「あなたたちが参加してくれたから、笑い声がいっぱい聞けたし、子どもがいるから普段できないこともできたんだよ。ありがとう。」と話しかけてくれました。この一言で、兄と妹は自己肯定感を持つことができました。みんなで子育てをしてくださって感謝しています。
帰宅した兄は「今日お母さん達は、障がいのある子を抱っこして海につからせてあげたでしょ。あれはすごくいいなと思ったよ。ぼくたち子どもは、いつも動きたいんだよ。遊びたいんだよ。障がいがあれば、ずっと車椅子に座っていたり、寝ていたりするでしょ。少し疲れたかもしれないけど、動きたいんだよ。遊びたいんだよ。嬉しかったと思うよ。ぼく、子ども同士だからわかるんだ。」と話してくれました。
みんなで力を合わせれば、何とかなる。そしてみんなで楽しむ。それが「ほっとくらぶ」です。子ども達が大人になった時に、こんな世の中になって欲しいと願う、子どもたちに創って欲しいと願う、障がい児も健常児も差別のない世の中のスモールバージョンが「ほっとくらぶ」にはあると思います。
その後、兄は学校でも切れなくなっています。そして「次のほっとくらぶは、いつあるの?」と聞いてきます。もっと多くの仲間が増えればと願います。